八王子川(マキノ)(3.17)

3月17日
 2月の下旬に1時間程探った谷が気になっていた。3月17日天気も良く暖かな日なので、本格的に辿ることにした。車で1時間半程度で目指す八王子川に到着。3月も半ばを過ぎたとはいえここは雪深い湖北山地、車窓より望む山々の稜線はまだまだ豊かな白い残雪に被われている。

残雪をまとった湖北の山々

 10時を少し過ぎた頃身支度を終え、入山の開始だ。ただ今日は、谷の最下部をショートカットする予定だ。辿る斜面に早くも残雪が現れる。その残雪にはつい数日前に入渓者があった事を示すくっきりとした足跡がある。もう一週間早く来れば良かったと悔いつつも計画通りに足を進める。周囲の木々の芽は固くまだ春はまだまだ先のようでである。15分程で目的の入渓地点に達する。

 ザックを下ろし竿に仕掛けを取り付け、いよいよ入渓の開始だ。流れに一歩足を踏み入れると、雪解け水の冷たい感触が、ウェーダーを通して伝わってくる。第一投は、小さな落ち込みの捩れ場である。2度流しても何も起こらない。例の入渓者がザラメの雪に点々と残した足跡を伝いながら釣り上がっていく。30分程で10cm級の岩魚が竿を三回ほど揺らすが、これといった当たりはない。見覚えのある堰堤を二つ越えた処で20cmの岩魚がようやく本格的に竿を撓らせる。河床が花崗岩なので白っぽい美しい魚体だ。写真に収めすばやく放流する。

雪の残る早春の谷

 それ以降も、ちび岩魚がちょかいを出すだけで何事も起こらない。幾つもの堰堤を越えると、目の前に見覚えのない高い堰堤が現れる。この谷をここまで詰めるのは十数年ぶりなので、それ以降に建設されたのであろう。堰堤手前の流れの溜まりに仕掛けを流すと目印が止まった。軽く合わせると、意外に強い引きが手元に伝わってくる。ネットですくうと25cmの今日一番の岩魚だ。さすがにここまで来ると、まだ少しさびが残っている。横の浅瀬に誘導しこれも素速く写真に収め放流する。岩魚は、元気よく元の流れに戻っていった。

まだ、さびの残るイワナ

 時計を見ると、針は2時を回っている。今日は先の堰堤までと決め、竿だけを持ち堰堤下まで行くことにした。期待した堰堤では、ちび岩魚がこつこつと竿先を揺らすのみであった。

 荷物を残した場所に戻り、紅茶と、サンドイッチの遅い昼食を楽しんだ。谷間から見上げる空は、果てを知らぬか様に高く、そして透明で蒼い。若い時ならばさらに堰堤を越え時間ぎりぎりまで谷を詰めたに違いないが、今はこれで充分だ。次回は、気のあった仲間とこの先を釣り上がろう。そう決めて、堰堤工事のために作られた、今は朽ち果てた林道跡を辿って谷に別れを告げたのであった。