下田原谷・幻の谷・大杉谷-(06.27-28)

6月27日(下田原谷、幻の谷)

 白峰渓遊会の2006年の初釣行は、6月27日と決まった。杉津SAで水谷氏を乗せた岡本号と落ち合い北陸道を北上する。福井北ICで高速道と別れ、国道416号線を九頭竜川沿いに遡り、市荒川大橋を渡ったあたりで国道から離れ山沿いの旧道に入る。

 周囲の田畑はすでに麦秋を終え、あおみを増した水田が拡がっている。行く手はいくつもの村落を縫うように複雑な曲線を描きながら続いている。平野部を抜け山が身近に迫ると、道は斜度を増し始める。そして暗くて狭い谷峠を抜けると白峰である。

 先ずは民宿「つるの」へ向かう。玄関先に現れたのは女将さんではなく親爺さんであった。女将さんは腰痛で入院しているとこと。いつもの笑顔が見られなくて寂しい。民宿も、開店休業である。なぜか親爺さんは一人にこにこしている。(深い意味はありましぇ〜ん!)

 暗黙の了解で、向かう先は下田原谷の「岡本スペシャルポイント」である。通い慣れたがたがたの林道を腸がねじれるそうになりながら数十分走れば到着である。身支度を終え、一気に斜面を駆け下りる。今年初めて耳にする渓の瀬音が耳に飛び込んでくる。嬉しさがこみ上げてくる。しばらくすると後続部隊が到着。それぞれお気に入りのポイントに仕掛けを流す。とっその時、岡本氏が大物を掛ける。イワナが暴れなかなか取り込めない。僕の目の前の流れにイワナが飛び込む。とっさに道糸を持ち引き上げようとしたが、糸が切れてしまった。35cmは優に越えていた大物であった。糸を持たなければ取り込めていたはずである。許せ、岡本氏よ。それ以降あたりはこない。最後に流れの右端の木の陰に隠れたポイントを探るとコツコツと小さな反応が返ってくる。三度目に軽くあわせると、心地よい引きが手元に伝わってくる。取り込めば、22cmのイワナであった。仕掛けを仕舞い、その場を後にする。

 水谷、岡本両氏はそのまま釣り上がり、僕は一人でさらに上流を目指すこにした。車を林道脇に置き、再び渓に向かう。行く手には淵と瀬が交互に現れるいかにも渓流魚が好みそうな流れが続いている。しかし、ちょっかいを出すのは放流サイズのイワナばかりである。骨酒用に20cm弱のイワナ二尾を魚籠に収めただけである。すでに時計は一時を回っている。僕は、急いで林道に戻ることにした。

 水谷・岡本組と合流、ずぶ濡れのまま地面に座り込み遅い昼食を採る。コンビニで買ったインスタントのカップ蕎麦とペットボトルのお茶だけであるが、澄み渡った空の下の極上のランチタイムであった。

 午後からの釣りは、長年僕が隠し続けている「幻の谷」に案内することにした。たどる林道は、夏草にまだ覆われていないので比較的走りよい。それでもパジェロの底は、ゴンゴン、ガリッガリッと悲鳴をあげる。途中、ササユリが点々と咲き乱れる切り開きに出会う。まるでササユリの園である。撮影の楽しみを帰路に残し林道の終点までいっきにとばす。

 林道終点から目指す渓は2〜3分の距離である。たどり着いた「幻の谷」の水量は通常の半分程度である。言葉には出さなかったけれど、これではイワナ達は石の下に隠れいつものような釣りは無理かもしれないと心配が頭をかすめる。堰堤を越えちょっとした大岩を乗越すと絶好のポイントが現れる。何時も良型が出るところだ。岡本氏が仕掛けを流す。イワナのの影が右から左の岩陰に走る。その岩陰に沿って仕掛けを流すこと数度、長い竿が大きく撓る。近くの砂場に寄せると24cmのイワナであった。非の打ち所が無いほど美しさを秘めた魚体である。
 
見事なネイティブ岩魚 緑深き山肌
 帰路ササユリを心ゆくまで楽しむ。皆さんお好みのデジカメを持ち出し無心で花にレンズを向ける。後は林道をぶっ飛ばすだけだ。六時少し過ぎ白峰着。後は、飲んで、食べて、温泉につかり、バタンキューである。
可憐なササユリ
7月28日(大杉谷
 いつもより早めの朝食後、部屋に戻り節々が痛む体を無理に曲げテレビのSWを入れる。チャンネルを天気予報に合わせると、加賀地方にはまばゆいばかりのオレンジ色の御天道様のマークが映し出されている。渓流釣り屋としては、這いつくばっても行かねば男がすたると云うものだ。だが一番若くてただ一人現役の岡本氏が、「足が痛いだの、運転が心配だの」等と弱気なことを云っている。結局リタイア組の水谷さんと僕とが釣りに、男を下げた岡本氏は観光ドライブに向かうことになった。

 向かう渓は大杉谷である。谷間から見上げる空は天気予報とは異なり、暗くて厚いに雲に覆われ雨粒が落ち始める。そして大杉谷への下降地点に着いた時には目の前が見えない程のどしゃ降りの雨が山をザワザワと鳴らし始める。だが男は、これくらいのことで諦めたりはしない。車の中で烈しい雨音を楽しみながら待つこと---分、雨音は消えた。二人は「ニヤリ」と笑い雨具を付けザックを背負い大杉谷へと斜面を下降を開始した。薄暗い大木の中の道は、長い間踏まれた形跡はなく途絶えがちであった。その時、脳みそに大釣りの予感が走った。渓は先ほどの大雨でささ濁っているに違いない。入渓者もいない。条件は十分過ぎるのだ。僕は、再度「ニヤリ」とし先を急いだ。

 大杉谷は、いつもの様にゴウゴウと瀬音を轟かせていた。白い花崗岩で埋め尽くされた明るい河原も昨年と何も変わっていない。流れは予想通りささ濁りであった。大物の臭いが漂う。そして第一投、仕掛けは流芯に沿って流れる。視線は目印に集中しその後を追う。胸の鼓動が竿を持つ手に伝っくる。二投、三投と繰り返す。おもりを少し重くし五等目、目印が止まる。一呼吸おいて軽く合わせる。仕掛けは動かない。竿を立て強く引くと強烈な引きが返ってくる。大物だ!。竿は半月状に多きくしなり、左右に振られる。竿を仕舞いながら徐々に仕掛けを岸に寄せる。ついにイワナが姿をみせる。その時、仕掛けは宙を切り、竿は軽くなる。糸が切れのだ。急いで針を付け替え、同じポイントへ。イワナはまたも仕掛けに飛びつき、竿は同じように半月を描く。二度とへまはしない。ゆっくりとイワナを流芯から引き離し取り込めば、顔つきも精悍な見事な尺ものであった。水谷さんも駆け寄ってくる。そして、大物潜んでいた堰堤をバックに証拠写真をパリチリとカメラのメモリーに収める。今日はこれで充分、僕は竿を収める事にした。

 そ後、水谷さんのお供で渓をそのまま下ることにする。20cm弱のイワナ二尾を魚籠に収め、堰堤下まで引き返すことにする。次は1mほどの堰堤を越え大堰堤の間の幅広い淵を釣ることにした。幅が広くてポイントが分かりづらい場所である。水谷さんは、位置を変えながら仕掛けを堰堤の落ち込みに向かって何度も投げ入れる。そして、数分後竿がしなる。急いで網ですくえば20cm強イワナであった。その後も水谷さんは、仕掛けを投げ続ける。僕は、先ほどから一つのポイントが気に掛かっていた。流れが渦を巻いて淀んでいる小さな場所である。まさか思いながら、腰から竿を抜きそのポイントに仕掛けを流すと目印がとまった。底にでも掛かったと思い竿を立てると突然穂先が水面に吸い込まれる様な強烈な引きが右手に伝わってくる。先ほどの引き以上だ。まず取り込む場所を探し、竿を横ざまにイワナを誘導。これまた尺サイズの大物であった。水谷さんがすかさず同じポイントに仕掛けを流すと、20cm強のイワナが飛びついてくる。もう少し長い竿が有れば40cm級も望めそうな場所であるが、今日はこれまでとその場を離れ大堰堤の上部へ向かうことにした。
尺岩魚と水谷さん
 元の道を少し引き返し、ツルツルの斜面を立木に頼って堰堤を越えればすぐに一級のポイントが待っている。ザックを置き見事な流れを前にして贅沢な休憩をとる。そして、一級ポイントへ。水谷さんの二投目、グゥッグゥッと竿がしなる。尺物か!。流れに入り網ですくえば、準尺ものであった。ザックを置いたまま空身で釣り上がる。広い河原小石が累々と積み重なっている。イワナ達は、人間のつたない推測では予測出来ない場所に潜んでいる。思いがけない流れや、小さなたまりから飛び出てくる。やがて、底まで透いて見える澄み渡った大きな淵が現れる。イワナが底で泳ぐのが見える。人の影など見たことがないのだろうか、仕掛けを流すと難なく飛びついてくる。魚籠を覗くとイワナでいっぱいである。今日はこれで充分だ。さー帰えろう、僕たちは立ち上がり上流に背を向ける。見上げると谷間にはいつの間にか晴れ上がった青い空が拡がっていた。
岩魚でずっしりと重くなった魚籠