トラ谷-仮称-(07.17)

7月17日
 今年も、白山祭りがやって来た。そして僕たち白峰渓遊会はいつものように白峰へと向かうこととなった。

 岡本氏は、祇園祭りの山鉾巡航を撮影してから参加の予定。山本氏は先約ありとのことで、不参加。と云う訳で早朝組は水谷氏と私の二人である。午前6時半水谷邸で彼を拾い、一路白峰へと車を走らせる。

 今回は、誰も知らない僕だけの隠し谷に向かうことにした。岡本氏より骨酒用イワナ3尾の調達依頼が有るかである。しかも白山祭りの神輿巡行は3時頃である。短時間で型の良いイワナを釣るには最良の谷である。

 夏草が茂る林道の横には、オカトラノオ、涼しげなヤマアジサイ、上品なナツツバキなどが花を付けている。トラノオのあまりの多さに、水谷氏は独断でこの谷を「とら谷」と命名。

 10時前に入渓点にたどり着く。釣り支度を終え、昼食をザックに詰め込み今日は骨酒用3尾のみを決め出発。すぐに、3m程の滝が現れるが左岸を強引に乗っ越せば釣りの開始である。3投目に、目印が上流に向かって走る。軽く合わせると、意外な引きがかえってくる。慎重に取り込めば26cmの良型である。これで、私の今日の釣りは終了。竿を仕舞うことにした。後は、水谷さんに任せることとした。
iwana
26cmのイワナ
 15cm級のイワナが、足下をさかんに走る。途中20cmを一尾キープ。そして水谷さんが、23cmの三尾目のイワナを釣り上げて今日の釣りは終了である。時計を見ると、丁度12時である。昼食は、いつものようにとろろ蕎麦でである。雑木林に被われた谷には微かに風が吹き抜けて行く。清冽を極める瀬は、美しいメロディーを奏でている。何もかも忘れて仕舞いそうな至福のひとときである。
緑深き谷
 そして、再び立ち上がり車へと引き返す。帰路は、花を撮影しながらのの旅である。山野草を充分堪能後、定宿「つるの」へは2時頃到着。とりあえずビールを注文、玄関先に座り込みで乾杯。もう祭りの準備は整っていた。

 4時頃神輿が「つるの」前の広場に到着。もう皆さん、すでに出来上がってようである。観客にもお酒はどんどんと振る舞われ、僕も次第に出来上がって行くのであった。そうこうする中に餅つきが始まる。既に出来上がった若者達は、力が入らないようである。水谷さんが飛び入りで参加。さすが昔とった杵柄、上手いものである。餅米は、次第に餅へと姿を変えて行くのであった。
祭りの御輿
 大騒ぎの後、意識が朦朧とした若者を引き連れて神輿は次の会場へと向かって去って行った。広場には、再び山村の静けさが戻ってくる。
 夕食後、祭りの会場へと向かう。陽が沈み辺りがが暗くなると人々は、輪にになって「モウタリ、モウタリ、モウタリナ」というお囃子にあわせて「かんこ踊り」舞い始める。 時が経つにつれて踊りは盛り上がり、人々とは放心状態で踊り続ける。「モウタリ、モウタリ、モウタリナ」、白峰の夜は更けて行くのであった。やがて祭りも終わり、スピーカーの電源は切られ、照明も消される。久ぶりの故郷であろう、それでも人々は踊り続けらるのであった。それを見ていると、何故か切ない思いが込み上げてくるのであった。「ふるさとの山に向かいて言う事なし、ふるさとはありがたきかな」。啄木の詩が脳裏をかすめる。
かんこ踊り
7月18日
 今日も、無情にもお天道様は正確に東の空に上がっていた。テレビでは、北陸地方も梅雨が明けた事を告げていた。いよいよ、猛暑の到来である。

 朝食後、林西寺の朝粥会に参加。温泉のお湯手炊いた粥と、漬物、堅豆腐、それに般若湯が振る舞われる。地元の名士の講釈の後、宴が始まりである。般若湯は、断らない限り注がれ続ける。こちらも、みめ麗しき女性に勧められては断わるわけにはいかない。たちまち、気分は天国に向かって飛び去って行った。今日は、これで「The End」。あとは、木陰で風に吹かれて居眠るだけである。
朝粥会