下田原谷(09.06)

9月6日
 下田原谷のヘアーピンカーブを描いている林道の小さな空き地に車を止めることにした。今日の同行者は、山本氏である。今月末学会のため日本を離れる彼にとっては、今シーズン最後の渓流である。

 今日は、林道から下田原谷へ下降しそのまま上流に釣り上がる予定なのだ。早めの昼食後、降り立った谷は何時もより増水し、笹濁っている。これは「つるの」の女将が云う通り、大釣りが出来るかも知れない。期待は次第に膨らで行くのであった。河原を見ると、最近大水があったのであろう、全ての草がなぎ倒されている。

 いよいよ、第一投だ。仕掛けは、リズミカルに白く波立った瀬を這うように流れて行く。これぞナチュラルドリフトと、自画自賛。もう一度同じポイントに流すと、コツコツと神経質なあたり。素速く合わすと、岩魚ではない鋭い引きが帰ってくる。ヤマメに違いない。引き上げると、やはり幅広のパーマークも色鮮やかなヤマメであった。上流の山本氏も竿を撓らせている。

 その後ヤマメ達は、瀬からも淵からも面白いように飛び出してくる。もう、入れ食い状態である。ナチュラルドリフトもあったものではない。僕たちは、夢中にになって仕掛けを流し続けた。気が付けば、魚籠は重くなっていた。もうこれ以上釣っても食べ切れない、それ以降は全て放流することにした。相変わらずヤマメ達は、次々と仕掛けに飛びつて来る。

 近くの岩に腰を落とし周囲を見渡すと、オタカラコウが大きな花で水辺を飾っている。アキギリ、サラシナショウマもあちこちで渓を彩っている。もうしばらくすると、大文字草も花を開けるにちがいない。渓を吹き抜ける風は、もう乾いた秋のそれであった。全身で山の霊気を吸い込み、僕は再び立ち上がった。

 そして、今日最後のとっておきのポイントに入ることにした。そこは、僕が15年以上隠し続けている岩魚のポイントなのだ。今日は山本氏に託し、僕はネットだけを持ち上流に向かう。先ず一つ目のポイント。瀬尻には、でかい岩魚が悠然として瀬に身を任せている。落ち込みに仕掛けを落とすと、岩魚はすーっと上流に消えていった。そして、強烈な引き。岩魚独特の、何時までも続く重い引きである。素速くネットを持ち上流に向かう。岩魚は、左右に走りなかなか取り込めない。数度掬い損なったが、無事ネットに収めることができる。丸々と太った27cmの惚れ惚れするほどの美しい魚体であった。

 次のポイントでも、20cmの岩魚が出る。さらに上流の二つほどのポイントでは何事も起きず、とうとう最後のポイントだ。でかいヤツの気配がある。一投目で、目印は上流に引き込まれていった。その後、岩魚の重い引きが続く。慎重にすくい上げると、先の岩魚に勝るとも劣らない見事な岩魚であった。

 さらに、上流に向かうがもう何も起こることはなかった。さー、引き上げよう。時計は、とっくに4時を回っている。道具を仕舞い、僕たちは急いだ。車に戻り、乾いた喉を潤した。そして、今日の宿「つるの」に向かったのであった。

 「つるの」の夕食は何時ものように、山海の料理であふれている。加えて、釣った岩魚の塩焼き、骨酒だ。とても、食べきれない。今日も、女将にお詫びを云わなければならいようだ。

 食後白峰の村を散策、酒屋により主人お奨めの地酒を1本買い込む。宿にに戻り、いつもの部屋へ入り布団にに身を横たえる。少し火照った体と、骨酒が浸みた体には、柔らかな布団は天国そのものであった。布団に潜り込むと、意識は驚く速さで失われて行った。

 今回、携帯用のカメラを忘れたので現場での写真はありません。
今日の釣果