3月28日 今日も快晴だ。水谷、岡本両氏は白山を撮影するため片山津方面に直行するとのこと。僕は白峰で花の撮影をすることにし、8時過ぎ民宿の前で二人と別れ山に続く林道に向かった。 林道は除雪されたとは云え両側には1m近くの残雪があり、花にはもう少し時間がかかりそうである。マンサクの細くて淡い黄色の花だけが冬の眠りから覚めている。そんな林道をあてもなく辿っていると左手前方の小さな沢が目に入って来る。雪解けのこの季節でも流れの幅は1m程度のチョロ沢である。夏には殆ど流れなど無くなってしまうとしか思えない谷だ。しかし、無意識にブレーキを踏み車を止めたのである。理由など何もないが「岩魚が居着いているかもしれない」、「岩魚がきっと居る」との思いが頭の中を一瞬駆け抜けたのである。 車から飛び降り、ウェーダーを履き、竿一本だけを持ち、そのチョロ沢にに急いだ。林道から5mほど遡った処でで第一投。10cm程の黒い影が走った。やはり岩魚はいたのだ。僕は無性に嬉しくなり、「やっぱり」と思わず呟いてしまった。そして、次のポイントへと急いだ。そこは、先のポイントより少し大してきく、深い。慎重に仕掛けを流すと、直ぐに目印が止まった。ここにも岩魚がいるのだ。だが、食いが浅いのか上手く掛からない。二投目、また目印が止まった。心持ち間をおいて合わせると、以外に強い引きが手元に伝わって来る。引き寄せると20cm級の見事な魚体のネイティブである。弱らないように直ぐに針を外せばゆっくりともとの流れに帰っていった。驚いた事に同じポイントに再度仕掛けを流すとまた10cm級の岩魚が姿をみせる。飲み込まれないよう、直ぐに仕掛けを上げ次のポイントへ。ここでも、20cm程度の岩魚が竿先をしならせる。この先、ポイント、ポイントには必ず20cm前後の岩魚が潜んでいて、数えると合計6匹にもなった。 しかし、あるポイントから先は突然のように岩魚達は消えてしまった。絶好の場所と思えても竿先はピクリともしないのである。何故だろうを不思議に思ったが、その謎は直ぐに解けた様に思えた。夏になるともうここまで遡ると、おそらく辺りは枯れ沢になってしまうに違いない、だから岩魚は住み着かないに違いないと。僕は、仕掛けを仕舞う事にした。帰路は、雪の感触を楽しみたかったので谷を離れ、斜面を辿ることにした。 2本爪の簡易アイゼンを付け雪の急斜面を100m程駆け上がり、トラバース気味に雪の斜面を下った。残雪は固く締まり心地良い。途中雑木の茂る小さな台地に出合う。美しい雪の台地だ。見上げると水色よりもさらに淡い早春の初々しい空が木の間越しに拡がっている。僕は、ザックを下ろすことにした。風はそよりとも吹かない静かな昼下がりであった。 |