下田原谷 (5.17-18)

今回の釣行は本当は3月の最終の土日の解禁日に行く予定だったのが、仕事等の都合で5月にずれ込んでしまったのである。同行者は水谷、岡本の両氏である。彼らにとっては今回が今年始めての渓流である。午前7時に北陸道、杉津SAで待ち合わせることにした。

5月17日
魚拓  2時半過ぎに目が覚めてしまう。昨年WEBで知り合った福井の友人のHPの掲示板(この掲示板ちょっとユニークで画像を貼り付けられるのです。)に白峰に向かう旨の書き込みを行った後、盲目の天才ヴァイオリニスト川畠成道の「歌の翼」をカーステレオにセットして4時前に自宅を出発する。7時に杉津SAで落ち合い白峰に直行する。

 9時前に、白峰の定宿「民宿つるの」に立ち寄ることにした。玄関先には、4年前の白山祭りの日に1時間の格闘の末取り込んだ44.5cmの岩魚の魚拓は健在であった。女将に今晩の事を頼み、1年ぶりの雑談を交わしたのち、岡本氏推薦の下田原谷へ向かう。が、途中通行止めのロープが張られていて車は進めない。横には山菜泥棒が横行していてそのための対抗措置である旨の事がと記された看板が立てられている。(後で民宿の女将に訪ねると釣人はロープを外して先に入っても良いとのこと。)しかたがないので車を置き、そこより谷に降りることにした。

 僕は、林道をさらに上流に進むことにした。そして、釣り場が重なり合わない程の距離をおいて谷に下ったのである。河原には可憐な白い花をつけた二輪草が密生していてそれをよけて進むのに苦労させられる。ふと斜面を見ると葉を大きくした座禅草が群生している。が、春先の雪の中に佇む凛々しさは何処へ行ってしまったのだろう。今は、すっかり俗人になり下がっている。釣りと云えば、10cm程度のあまごばかりがちょかいをだすだけだ。しかし、決して不満ではない。木々の芽は淡くて初々しく、谷を渡る風はこの上もなくしなやかなのだ。谷の瀬音とは心地良いまでに軽やかに春の唄を奏でている。それだけでも充分である。

 あまり期待できないが、本流を離れ小さな支谷に入ることにした。と、直ぐに鋭いあたりがあるが不覚にも取り逃がしてしまった。確かに25cm級の岩魚である。途中いかにも岩魚らしいあたりがあるが、うまく合わせることができない。やはり、まだ食いが浅いのだろう。時計を見ると12時を廻っている。1時の待ち合わせにはもう限界である。次ぎのポイントを最後にすることにした。小さな落ち込みに仕掛けを流すと尺級の岩魚が追ってくるが食いつかない。2度ばかり試みるが同じことの繰り返しだ。少し考えた末、おもりを重くし再度仕掛けを流すと今度は重いあたりがあり、5.4mの竿は円弧を描いてしなった。近くの岩場に誘いうまく取り込むことができる。

 まだまだ上流には好ポイントがありそうだが、仕掛けを仕舞い待合い場所に向けて急いだ。両氏はすでに待っていて、冴えない顔をしている。今釣り上げた岩魚を計測すると尺近い。だが、釣り仲間は手厳しい。岩魚に関しては一文、いや1mmたりともまけてははくれない。結局岩魚は29.5cmとなった。

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 少し遅いが、少し降った支谷とので出合昼食をとることにした。メニューはソーメンである。一株だけ谷で頂いた山葵を薬味に、5月の晴れ渡った空の下ですするソーメンはどんな高級料亭で頂く料理より美味しいものだ。湯がいた麺はたちまちのうちに3人の釣り人の胃袋に収まってしまう。炊事道具を洗っている間に水谷氏は、僕の釣った岩魚をさも自分が釣ったかのようにちゃかりと写真におさまっている。まあ先輩を立ててここは氏に進呈しよう。まだ時間が少しあるので百合谷に入ることにした。林道の両側には、藤の花が今が盛りと上品な淡い紫色の花を垂れている。先週はまだ堅いつぼみだったのに、若葉時の山々の移ろう速さは目を見張るばかりである。

 入った百合谷は、放流サイズが2〜3匹掛かったあと、大きな淵の瀬尻で26cmがふわーと仕掛けを追ってきた。再度仕掛けを沈めがちに流すと思い通りに食いついてくれる。その後3〜4ポイントを探るが反応はない。これから2年程は入らないと決めて、急斜面を上がり林道に戻る。水谷、岡本両氏はまだ釣り足らぬのか、風嵐谷に向かう。僕はもう充分なので、百合谷がダム湖に流れ入る辺りでで夕時の心ゆるげな風景を背景に釣り糸を垂れたのち、今夜の宿に向かったのである。

 夕食は釣ったばかりの岩魚2匹の入った骨酒と岩魚の塩焼きが追加されている。先ずは、今年始めての渓流釣りにビールで乾杯。次いで骨酒だ。岩魚のうま味がしみ出た琥珀いろの液体は五臓六腑にしみ渡り、何度も杯を重ねた。そして夜は更けて行き、ころりと眠りについたのであった。


5月18日
 釣りにしては遅い朝食である。8時前に朝食を終え、お世話になった女将に礼を告げ9時前に宿をでる。今日の目的地は昨日入れなかった下田原谷の上流である。水谷、岡本両氏はその前に、昨日車止めのロープで入れなかった風嵐谷に入ると云う。僕は、今日は乗り気がしないので林道を少し入った堰堤で待つことにした。1時間ほどで2人を乗せたビッグホーンが帰ってきた。水量が多く全くだめとのこと。その後、下田原谷に向かう。例のロープを外し上流に向かうが、予定していた入渓ポイントには既に4台もの車が止まっている。車のナンバーは全て石川で、中を覗くと釣り気配は無く、山菜採りだとたかをくくり谷に降りるが、そこには先行者が3名も居るでははないか。しかも一人は背に一杯の山菜を背負い、釣りを終えて下ってくるところであった。言葉を交わすと、「岩魚を釣るにはもっと早くこなくては」とたしなめられた。釣りは諦め入渓ポイントに引き返すと、両氏も引き上げていた。

 今日は釣りは諦め、白峰観光と写真撮影に専念することにした。昼食に立ち寄った喫茶店のマスターは饒舌である。聞きもしないのに京都出身で20年以上も白峰に通い続けて、とうとう此処に落ち着いたことや、50cmを越える鱒がせびれを水面からだしながら遡上することなど次々と話が飛び出してくる。注文したのは京風オムライス、どんなものかと楽しみにしていると、大根おろしがトッピングされていてポン酢をかけて食べるのである。新しい試みに挑戦したことだけは認めよう。

 昼食後、市ノ瀬に向かい白山を撮影し少し早いが白峰に別れを告げる。

 (写真はカメラ無精の私に変わって全て水谷、岡本両氏から提供いただきました。)